朝の吉野家で豚丼。ひとりで食べる時間が、心地よかった。

投稿者: | 2025年4月17日

朝の街は、まだ眠たげだった。

駅前の通りを歩く人たちは、ほとんど無言で、
イヤホンをつけて下を向きながら、それぞれの目的地に向かっていた。

私はというと、仕事の前でも、用事があるわけでもなかった。
ただ、なんとなく早く目が覚めてしまったから、
一人で外に出てみようと思っただけだった。

ふと足が止まったのは、吉野家。
オレンジ色の看板が、朝の光の中でやけに暖かく感じた。

「朝から豚丼、ありだな。」

そうつぶやいて、私は自動ドアをくぐった。

店内は空いていた。
カウンターに二人、奥のテーブル席に一人。
みんな、ひとり。

店員さんがにこやかに「おはようございます」と声をかけてくれる。
その言葉が、今日初めて人にかけられた挨拶だった。

私はカウンターに座って、
「豚丼の並と、味噌汁つけてください」と注文する。

注文が通ると、すぐに厨房からジュウジュウと音が聞こえてきた。

5分もしないうちに、
トレーの上に並べられた「豚丼」と「味噌汁」がやってきた。

蓋を開けた瞬間、湯気とともに立ち上る香りが、空腹の腹に直撃する。

箸を持って、まずはひとくち。

甘辛いタレがよく染みていて、ご飯が進む。
豚肉の脂は思ったより軽くて、朝でも重くない。
味噌汁のしょっぱさが、なんだかホッとさせてくれる。

気がつくと、私はただ黙々と食べていた。

スマホも見ずに、音楽も聴かずに。
目の前の豚丼と向き合っていた。

「ひとりでごはんを食べるのって、寂しくないの?」

そう聞かれたことがあるけど、
私はむしろ、ひとりの朝ごはんが一番好きかもしれない。

誰とも会話をしない静けさ。
自分だけのペースで咀嚼し、飲み込み、味わう時間。

目の前の一杯に集中できる、その瞬間が贅沢だと思う。

店内のテレビからは、朝のニュース。
「今日は全国的に晴れ」
天気がいいと聞くだけで、ちょっと得した気分になる。

食べ終わった豚丼の器を見つめながら、
「今日も頑張ろう」と思ったわけでもない。
でも、「まぁいっか」と肩の力が抜けた感じがした。

レジで会計を済ませて外に出ると、
太陽が少しだけ高くなっていた。

冷たい空気の中に、少しずつ春の匂いが混じり始めている。

「よし、今日は散歩でもして帰ろうかな」

そう思えるくらいには、心が整っていた。

吉野家の豚丼。
ただそれだけの朝ごはん。
だけど、私には充分だった。

ひとりで食べるって、
こんなに静かで、こんなにあたたかいんだなって、
あらためて感じた朝だった。

★★★★☆ (4 / 5)

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