周りは新生活が始まっていた。
桜は満開。
駅にはピカピカのスーツ。
SNSは「入学しました」「入社しました」でいっぱい。
僕はというと、公園のベンチでひとり。
文庫本と赤本と、薄めの参考書をテーブルに広げていた。
なぜ公園かって?
自宅だとダラける。
予備校の自習室は今日は混んでた。
カフェはなんか気が散る。
公園なら、誰にも何も言われない。
風の音と、たまに聞こえる子供の笑い声だけ。
この静けさがちょうどいい。
一浪って、変なポジションだ。
現役生でもない、社会人でもない。
中途半端で、何かに取り残された気がする。
でも今日の自分には、昨日の自分よりも強さがある。
知らなかった単語を覚えた。
1問解けなかった問題が解けた。
それって、昨日より前に進んでるってことだ。
それだけで、今日はOK。
公園で勉強してると、いろんな人が通り過ぎる。
犬の散歩をしてるおばあちゃん。
ベンチでアイス食べてる高校生カップル。
保育園のお迎えにきた若いママ。
「俺、何してんだろ」って一瞬だけ思う。
でも、そんな自分をちょっと誇らしく思ってる。
誰かと比べない場所で、
誰にも見られてない時間を、
一人で過ごすって、
すごく、自分に向き合ってる気がする。
また明日も、同じ場所でやるつもり。
春の終わりには、
少しは成長した自分でいたいから。
来年の春は、
「一浪だったけど、あの時間があったから今がある」って言いたい。