一人でフランスパンを食べていた。静かな朝と、ちょっと固い幸福。

投稿者: | 2025年4月17日

カリッ。

フランスパンをかじる音が、静かな部屋に響く。
テレビもつけていない。
スマホもテーブルの端に置いたまま。
音のない朝。
ただ、私とフランスパンの存在だけが、ぽつんとそこにある。

スーパーで買った、少しだけ高めのフランスパン。
昨日、なんとなく惣菜パンを選ぶのが嫌になって、
気まぐれに手に取った。

「たまにはこういうのも、いいかもしれない」

カゴに入れる瞬間は、ちょっとだけ背伸びしたような気持ちになった。

家に帰って袋を開けると、
思ったより長くて、思ったよりゴツゴツしていた。
「これ、1人で食べきれるかな」
でも、そんな不安も、朝になったらどこかに消えていた。

朝、軽くトースターで焼いた。
表面がパリパリになって、
バターを少しだけのせて溶けるのを待った。

カリッ。

その一口目の音と、鼻に抜ける香ばしさに、
少しだけ「あ、当たりかも」って思った。

ひとり暮らしをしてると、
朝ごはんってどんどん手抜きになる。

コンビニのおにぎり、食パン、シリアル、ヨーグルト。
それはそれで悪くないけど、
「噛む」ことに集中する朝って、あまりなかったなと思った。

フランスパンは、噛まないと飲み込めない。
顎にちょっと力がいる。
だから自然と、ゆっくりになる。
咀嚼している間、他のことは何もできない。

それが、思っていた以上に心地よかった。

食べながら、ふと思った。

「誰かと食べるなら、これはちょっと食べにくいかもな」

口の中でバリバリ音がするし、
こぼれるクズも多いし、
何より、何か話そうとしても噛んでる時間が長すぎる。

でも、ひとりで食べるなら、全然気にならない。
自分のペースで、静かに、ただただ“味わう”。

バターの代わりに、はちみつを垂らしてみた。
それも悪くなかった。
ちょっと贅沢な朝ごはんっぽくて、気分が上がった。

紅茶を飲みながら、残りのパンをちぎって、口に入れる。

ふだん気にもしなかった“食べること”が、
こんなに丁寧で、こんなに穏やかな時間になるなんて。

「1人で食べるフランスパン」って、
誰にも語られることのない出来事かもしれないけど、
私にとっては、
この朝を豊かにしてくれた、ちゃんとした“イベント”だった。

スマホの通知が鳴った。
でも、すぐには見なかった。
あとでいいやって、そう思えた。

食べ終わったあとの静けさは、
満腹感とはまた違う、
“満たされた感じ”だった。

今日はいい一日になるかも、
そんな予感すらした。

★★★☆☆ (3 / 5)

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