バイクで日本一周、365日の孤独と自由。

投稿者: | 2025年4月17日

エンジンの音だけが、朝の空気を切り裂いていく。
バックミラーには、もう戻らない街と、昨日までの自分。

僕は今、バイクで日本一周の旅に出ている。
会社を辞めた。すべてを手放して、ひとり旅に出た。
理由は簡単。「このままで終わりたくなかった」からだ。

初めての出発は、春だった。
桜が咲き始めた関東の片隅から、北へとハンドルを切った。

寒かった。
信号のない峠道、吹きすさぶ風、しびれる指先。
けれど、そのすべてが新しかった。

「こんなに世界は広かったんだ」
それが、東北の海沿いを走ったときの率直な感想だった。

北海道では野生のキツネに出会い、
九州では温泉で地元のじいちゃんと朝まで語り合った。
四国では、沈下橋の上でしばらくエンジンを切り、ただ風に身を任せていた。

旅は、自由そのものだった。
時間に縛られず、誰にも気を遣わず、
好きな道を、好きなだけ走る。

でも、それは同時に「孤独」でもあった。

コンビニの駐車場でひとり食べたおにぎり。
キャンプ場の隅でテントを張り、夜空を見上げた夜。
誰にも話しかけられず、声を出さずに1日が終わることもあった。

SNSで旅の写真をアップしても、
誰かの「いいね」がつくたび、心が少し寂しくなった。
「いま自分は、誰の記憶にも存在していない気がした。」

それでも、旅は続けた。

なぜなら、その孤独の中に、
本当の“自分”が顔を出す瞬間があったからだ。

自分がどれだけ臆病で、
どれだけくだらないプライドを抱えていたか。
誰かに認められたくて、強がっていたか。

旅は、そういうものを全部むき出しにしてくる。

ある日、岐阜の山奥で出会ったライダーが言った。

「バイク旅は、逃げた先に答えがあるんだよ。」

最初はよくわからなかったけど、
1年かけて、少しだけ意味がわかってきた気がする。

日本一周を終えて戻ってきた僕は、同じ街を見ても、以前のようには見えなかった。
人混み、満員電車、機械的な会話。
そこに「違和感」を感じるようになっていた。

でも、それは悪いことじゃない。
旅の途中で見つけた「心地よさ」や「ありのままの自分」を、
日常に持ち帰ることができたから。

今でも、たまにバイクに跨がると、
あの日の感覚がふっと蘇ってくる。
夕暮れの国道、旅先で食べたラーメン、知らない人とのたわいない会話。

日本一周は、ゴールじゃなかった。
あれは、人生をリスタートするための“準備運動”だったのかもしれない。

もし、今あなたが何かに行き詰まっているなら、
バイクじゃなくてもいい。
歩きでも、自転車でも、バスでもいい。
とにかく、日常を飛び出して「自分の足で世界を感じてみてほしい」。

道はいつだって、あなたを試してくる。
でも、そのぶん必ず「何か」に出会える。

それが、誰かとの出会いなのか、
自分との再会なのかは、走ってみてからのお楽しみだ。

★★★☆☆ (3 / 5)

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